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山梨県の温泉はなぜ澄んでいる?|ミネラル豊富な甲州の湯の魅力【水道職人:プロ】

富士山の麓に広がる山梨県。
透明感のある温泉が多いと言われますが、その澄み切った色合いはどこから生まれるのでしょうか。

 

地下深くをめぐる伏流水、火山帯の熱源、断層に沿って湧き出すラドン泉。
水の経緯をたどると、甲州の温泉が持つ様々な魅力が見えてきます。

 

この記事では、澄んだお湯を育んだ地質について触れつつ、水から知る山梨温泉の特徴についての情報をまとめてみました。
これから山梨を訪れる方も、すでにファンだという方も、ぜひ気軽に読み進めてみてください。

甲州の湯が澄んでいる理由

山梨の温泉をのぞくと、湯舟の底までくっきり見えるほど透明な湯が多いことに気づきます。
その大きな要因は二つあります。

 

ひとつは「富士山の伏流水」です。
富士山の裾野には厚い溶岩層が重なり、その無数のすき間が天然のフィルターの役割を果たしています。

 

雨や雪解け水は溶岩の中をゆっくり通り抜けるあいだに鉄分や不純物が取り除かれ、ミネラルだけをほどよく含んだ透明な地下水に生まれ変わります。

 

もうひとつは「深成水(しんせいすい)」と呼ばれる深い地下の温泉水です。
県西部から南部を横切る「中央構造線」という大断層を伝って、地下深くで温められた水が上昇してきます。

 

深成水はもともと鉄分が少なく、地表に出ても赤く濁りにくいため、そのまま澄んだ状態を保ちやすい性質があります。
このフィルターを通った富士の水とミネラル豊富な深成水が、山梨各地で混じり合いながら、透明度が高いまま湧き出すという仕組みが、甲州の湯が澄んでいる最大の理由です。

地質が育む二つの水脈

山梨県の温泉は、大きく「火山性温泉」と「深成水(しんせいすい)型温泉」に分けられます。

 

前者は富士火山帯の熱を受けて浅い地下で温められた伏流水が湧出するタイプ。
後者は中央構造線沿いの大断層から、地下深部で長い年月をかけて凝縮された水が上昇してくるタイプです。

 

それぞれ温泉として湧きだすまでのルートが異なるため、ミネラル組成や浴感にも個性が表れます。

富士火山帯がもたらす火山性温泉

山梨県の南東部は富士火山帯に属しています。
富士山や御坂山地の地下には、現在も熱を帯びた岩体(マグマの名残)が点在し、その熱が地下水を温めています。

 

火山性温泉は比較的浅いところで加熱されるため、湯温は高めでもミネラル分はほどよく軽やか。
河口湖温泉郷や山中湖温泉の湯が透明で肌ざわりが柔らかいのは、この浅い熱源のおかげとされています。

中央構造線沿いの深成水・ラドン泉

一方、県の西~南部を横切る「中央構造線」は、日本列島を貫く大断層です。
この断層の奥深くには高温高圧の環境があり、長い年月をかけて地下水が温められます。

 

こうして生まれる深成水は、カルシウムやナトリウムを豊富に含み、弱い放射線(ラドン)をわずかに帯びることがあります。
下部(しもべ)温泉や早川町の泉源が「ラジウム温泉」と呼ばれるのはそのためです。

 

深成水は鉄分が少なく、空気に触れても濁りにくいので、澄んだまま湯船を満たしてくれるのが特徴です。

甲府盆地を一望する絶景の湯|みたまの湯

山梨に数ある名湯の中でも、過去に全国の温泉ファンからの投票で「絶景の温泉」として1位に輝いた温泉があります。
それが、市川三郷町の高台に湧く「みたまの湯」です。

 

標高およそ370メートルに位置する露天風呂からは、昼は南アルプスの稜線と甲府盆地を包む山並み、夜は宝石を散りばめたような盆地の夜景までが一望できます。
湯舟に身を沈めたまま、空と街のグラデーションをゆっくりと堪能できる贅沢なロケーションが、非常に高い支持を集める理由です。

 

泉質は弱アルカリ性で、肌を包むようなとろみがあり、湯上がりには指先までしっとりとした感触が残ります。
塩素臭も少なく、無色透明で飲泉も可能なやわらかなお湯は、景観の透明感とも相まって「澄んだ甲州の湯」を象徴する存在と言えますね。

 

甲府盆地側にせり出すように造られた湯舟に浸かって、昼と夜でまったく表情を変える景観を味わえば、山梨の温泉が持つ水と景色の調和を全身で実感できるはずです。

 

旅して日本プロジェクト:温泉総選挙

澄んだ温泉から知る山梨の水

富士山の天然フィルターをくぐった伏流水と、中央構造線が育む深成水。
二つの水脈が交わることで、山梨の温泉は透明感を保ちながらも、それぞれ異なる味わいを生み出しています。

 

湯舟の底まで見通せるクリアなお湯に身を沈めるとき、その背景にある何百年もの時をかけて生成された水のこともぜひ思い浮かべてみてください。
きっと、甲州の湯めぐりがより奥深いものになるはずです。

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